翻訳を楽しもう!(4)/座るのはどこ?

2017.10.15

「翻訳を楽しもう!目次」

今日は、椅子の使用説明書の注意書きから。メーカーの責任回避のためか、「そんな使い方する人がいるの?」と思うような不思議な注意事項が並んでいる中で、このふたつは比較的まっとうです。

①請不要站在椅子上,,…
②請不要坐在椅子的邊緣上,,…

「邊緣 biānyuán」は、「へり、ふち、端の方」。それ以外は易しい単語ですね。でも、実は、このふたつの文の和訳を比べると、日本語と中国語のちょっと面白い違いが見えてくるのです。

さあ、あなたなら、どんな風に訳しますか?

yizi

【解説】

今日のテーマは中国語の「~上shàng」の訳し方です。

「①請不要站在椅子上」の場合は、次のように和訳にも「上」が出てきます。

③椅子の上に立たないでください。

ところが、「②請不要坐在椅子的邊緣上」の方は、「上」をつけて訳すことができないのです。

 

まず、簡単な形で見てみましょう。

④坐在椅子上
⑤椅子に座る

⑤に「上」をつけて「椅子の上に座る」と言うと変ですね。では、中国語の②や④の「上」は、いったい何のためについているのでしょうか?

実は、中国語の「在」の後ろに置く名詞句には、場所を表す言葉でなければならない、という制約があるのです。「日本」「台北」等の地名や、「學校」「圖書館」等の広い空間を持つ名詞はそのままでいいのですが、「椅子」のような事物を表す名詞は、そのままでは場所を表すことができません。そこで、「上」を加えて場所を表す言葉に変えるのです。だから、①②④の「上」は省略することができません。

「倒在杯子裡(コップにつぐ)」等の「裡(なか)」も同じ役割ですね。

 

一方、日本語の方は、それが通常の使われ方をする場合、「の上」や「の中」をつけることができません。

⑥ベッドに寝る
⑦ベッド(の上)に服が置いたまま

⑧コップにビールをつぐ
⑨コップ(の中)に虫が入った

⑥⑧は「の上、の中」をつけると変です。でも、⑦⑨のように、本来の使われ方とずれていたら、「の上、の中」をつけることができます。「椅子の上に座る(×)」はダメだけど、「机の上に座る」ならOKですね。

 

気をつけて見ていくと、中国語には、日本語に訳してはいけない「上」「裡」がたくさん出て来るのですが、慣れないうちは、どうしても原文に引きずられて、「~の上」「~の中」と余分な言葉をつけがちです。落とすべき言葉を落として自然な日本語に訳せるようになれば、逆に日本語から中国語に訳す時も、加えなければならない「上」「裡」が、見えてくると思います。

 

 

では、本日の参考訳です。

椅子の上に立たないでください。
椅子の縁に座らないでください。