翻訳を楽しもう!(6)/二人でも会議?
2017.10.23
学生時代、「開會」に、「会議を開く」と「会議に出る」の二通りの訳し方があると知った時、ちょっと不思議な気がしました。でも、実際に仕事で中国語を使うようになると、この言葉には、その他にも様々な訳し方があることがわかって、とてもおもしろいと感じるようになったのです。
今日、チャレンジしていただくのは、この「開會」を使った次の文の翻訳です。
①今天下午我跟客戶開會
ポイントのひとつは、参加者の人数をどうイメージするか。さあ、あなたならどう訳しますか。
解説
まず、直訳してみましょう。
②今日の午後、私はお客さんと会議を開きます。
ちょっと、不自然ですね。でも、なぜ不自然なのでしょうか?今日は、まず、その不自然さの正体から考えてみましょう。
台湾人の同僚に、「“開會”は、何人ぐらいが参加する感じ?」と聞くと、「2人以上」という答えが返ってきました。
ところが、日本語の「会議(かいぎ)」には、少し改まったイメージがあります。だから、2~3人の小規模の集まりを「会議(かいぎ)」と呼ぶと大げさな感じがしますね。人数が少ない時は、「打ち合わせ」「ミーティング」等と言うことが多いはずです。
また、「会議(かいぎ)」は、参加者が比較的平等な立場で、議論しているイメージがあります。だから、これから取引を始めてもらおうと思っている会社に行って、自社の商品やサービスをPRする時には使えません。「プレゼン」「営業」等の方が自然でしょう。契約がとれた後も、クライアントに対し、「会議をしましょう」とはあまり言いません。「お打ち合わせをお願いします」ですね。
一方、中国語の「開會」には、そのような制約はありません。少人数でも、参加者の立場が不平等でも使えます。営業段階の商談でも、「開會」が使えるのです。
もうひとつ、どんな立場かという問題もあります。中国語は、主語をはっきり言うことが多いので、「我」があるとどうしても、「誰が何をする」の形で訳したくなりますね。もし、「開會」を「会議を開く」と訳すと、主催者側か少なくとも共同で主催しているメンバーのひとりという感じがします。大きな会議に、出席者の一人として参加するだけなら「会議に出る」と訳すことになります。では、どんな立場かわからない時は、どうしたらいいのでしょうか?
実は、心配ないのです。日本語には、どちらにも対応できるとても便利な表現形式があるから。それは、動作主を言わない形です。「今日は会議があります」と言えば、どんな立場でも大丈夫ですね。
中国語は「誰が何をする」という形で表現することの多い「する型」言語。これに対し、日本語は「何がどうなる/どういう状態にある」という形で表現することの多い「なる型」言語。この違いを知っておくと、翻訳口調にならないより自然な訳文を書くことができます。
日本の政治家は、よく「消費税が10%になります」のような言い方をします。こうすると、引き上げた責任者が見えにくくなりますね。でも、これは、彼らが意図的にそういう表現をしているわけではなく、日本語の特徴なのですよ。(うまくその特徴を利用しているとも言えますが)
では、本日の参考訳です。
★今日の午後は、取引先との打ち合わせがあります。