翻訳を楽しもう!(9)/「表演」と「パフォーマンス」

2018.1.7

「翻訳を楽しもう!目次」

 

日本語で「パフォーマンス」(英語のperformanceではありません)という言葉を聞いた時、皆さんがまず思い浮かべるのは、どんな意味でしょうか?私の場合は、「政治家のパフォーマンス」のような「わざと派手なことをしてみせること」。それから、「大道芸人のパフォーマンス」のようなセミプロの芸。

こんな事が気になるのは、中国語ネイティヴが書いた日本語の中に「パフォーマンス」の間違った使い方が時々出てくるから。そして、それが「表演biao3yan3=performance=パフォーマンス」という誤解から生まれていると思えるから。

この問題をはっきりさせたい、という思いが、年末の紅白歌合戦で更に刺激されました。

だから、今日の翻訳のお題は、中国語の「表演」と日本語の「パフォーマンス」の違いがよくわかるこの言葉。

幼稚園畢業典禮表演

さて、あなたならどう訳しますか?

【解説】

中国語の「表演biǎoyǎn」は、「演じてみせる」という意味。だから、演じている人や芸の種類もかなり幅が広いのです。

幼稚園の発表会、語学学校の外国語劇から、世界的に有名なバレエ団の舞台まで。
結婚式の余興、素人のカラオケ大会から、オペラ歌手のコンサートまで。

ぜーんぶ「表演」です。

子供が学校で新しい歌やダンスを習ってきた時、親戚の前で、親がこう言ったりもします。

你表演一下給阿姨看啊~/おばちゃんにも見せて(聞かせて)あげて

この中に、日本語の「パフォーマンス」(英語ではない)で表せるものがあるのでしょうか?私の語感では、どれも厳しい気がします。それは、なぜでしょう?

「パフォーマンス」のような比較的歴史の浅い外来語は、「新しい、おしゃれな」というイメージとともに、「軽い、非伝統的な」というイメージを与えることがあります。それが、幼稚園の発表会や外国語劇のような素人芸にも、そしてプロのバレエや歌にも使いにくい、という制約を生むのだと思います。

 

また、単一の芸ではなく、いくつかの芸を組み合わせた、というイメージもありますね。紅白歌合戦の司会者が、AKB48に「パフォーマンスしていただく」と言ったことに対し、辞書編集者の飯間先生はこうコメントされています。

このつぶやきを見た時に、すぐに浮かんできたのは、

同じように歌って踊る安室奈美恵ちゃんにも「パフォーマンス」を使うのだろうか?

というちょっと意地悪な疑問でした。劇団四季や宝塚の舞台に使うのも軽すぎる気がします。

同じお笑い芸人でも、ピコ太郎、ブルゾンちえみ、渡辺直美、コロッケ、タモリ、藤山直美と並べてみると、「パフォーマンス」が使えそうな人とそうでない人がいますね。

 

この写真は、観光地で有名な淡水で、「最初は何を描いているのかわからないけど、最後に上下をひっくり返すとちゃんと絵になっている」という芸を披露している人。こういうセミプロの複合的な芸こそ、「パフォーマンス」の典型だと、私には思えるのです。
大道芸人2

でも、AKB48に対して「パフォーマンス」が使えるとしたら、若い人の感覚は少し中国語の「表演」の用法に近づいているのかもしれません。

「表演」は、「演じて見せる」としか言っていないので、素人かプロかも、年齢も、演じられる分野も問わないのです。歌、ダンス、手品、サーカス、お笑い、フィギュアスケート等、単独の分野でも大丈夫。だから、日本語の訳語も次のように様々。

お遊戯、発表会、学芸会、出し物、余興、演技(する)、舞台、コンサート、ショウ、リサイタル、ライブ・・・

歌、ダンス、マジック、コント等、演目を言った方がいいこともあります。

AKB48のも間違いなく「表演」ですが、これをもし「パフォーマンス」と呼ばなかったら、「歌とダンス」のように言うしかないのかもしれませんね。

 

ちなみに、政治家等がわざと派手なことをしてみせるのは「作秀zuòxiù」と言います。「秀」は「ショウ」の音訳で、「表演」よりちょっと格下のイメージ。クラブ等で演じられるショウもセクシーな面が強調されると、「表演」ではなく「秀」になります。

 

では、今日の参考訳をどうぞ。

卒園式の出し物