大人になってからの外国語学習では、文法を上手く使うことで、効率よく力をつけられます。だから、文法に対して苦手意識を持っている人にも、その便利さを何とか伝えたいとあれこれ方策を考えているのですが、その中で特に難しいのが、様々な文法用語をどう説明すればよいのかという問題です。

特に、「主語」「形容詞」等の基本的な用語に対する理解が、教える側と学ぶ側との間でずれていると、その後の説明もすんなり受け入れられないので、そこをどうクリアすればよいのかをいつも考えています。中国語の文法の説明がなかなか理解できないという人も、ぜひ一度一緒にこの問題を考えてみてください。

1.「主語」がみつからない!

中国語で少し長い文を読むようになると、どこで区切ったらよいかの判断を間違えて、誤訳する人が増えてきます。そんな時には、「この文の『主語(しゅご)』は?」と問いかけるのですが、ある時、相手が探しているものが私が求めているものと違っていたことに気づきました。話をわかりやすくするために、比較的シンプルな例で状況を説明してみましょう。

我姐姐看的那本書非常難。(姉が読んでいる本はとても難しい。)

この文で「主語(しゅご)は?」と聞いた場合、「我姐姐看的那本書(姉が読んでいる本)」と答えて欲しかったのですが、なかなか返事が返ってきません。「どこで悩んでるの?」と聞いたら、「那本書」か「書」かで迷っているというのです。

主語1このことがあってようやく思い出したことがありました。日本の小学校の国語の時間に「主語」探しをする時には、「修飾語」の部分を除いて、ひとつの文節で答えることが求められていたのです。

上の「姉が読んでいる本は非常に難しい。」という文なら、その「主語」は、「姉が読んでいる」という「修飾語」を除いた「本は」だと教えられています。小学生用の学習プリントサイトで公開されている右の例をごらんください。(画像は、「ちびむすドリル」からお借りしました。)

「修飾語」を加えた「姉が読んでいる本は」の方は、「主部」と呼ばれることもあります。

一方、中国語では通常、この「主部」に相当する言葉(上の例では「我姐姐看的那本書」)を「主語(zhǔyǔ)」と呼びます。そもそも、どこからどこまでが一語かを見極めるのが難しい(その必要性が低い)上に、文中の役割によって同じ語彙の品詞がコロコロ変わることも多い中国語で、国語の時間に習った「主語(しゅご)」に当たる言葉を探そうとしたら、難しいに決まっています。学習者の理解を助けようとして発した質問が、この時は、相手を更に混乱させていたのでした。

 

2.「『主語』は何?」とみんなに聞いてみたら

では、「主語(しゅご)」という言葉を聞いた時に、日本人のほとんどが小学校で教えられた通りの範囲をイメージしているのかというと、実はそうでもないのです。TwitterInstagramのアンケート結果をごらんください。

zhuyu

この「主語」探しは小学校二年生の学習項目なので、小学生のお子さんがいらっしゃれば「B.本は」を選びやすかったのかもしれませんが、それでも約半数の人が、修飾語を含む「A.姉が読んでいる本は」を選んでいます(文法をどう考えるかは諸説があるので、どれが正解かという話ではありません)。

小学生の時に習った「主語」という言葉の指す範囲が、いったいいつの間に変わってしまったのでしょうか。英語でSVC、SVO、SVOCのような文型学習をするうちに、「主語」の範囲の捉え方が変わったのか、それともフォロワーさんに中国語学習者が多いという影響なのかはわかりませんが、文法用語の基礎の基礎ともいえる「主語」という言葉でさえ、これほど人によって理解が違うということは、教える側が常に注意しておかなければならないことなのだろうと思います。

「量詞」「介詞」「補語」等の中国語の特色と関わる用語については、何度も繰り返して説明するのですが、「主語」という用語をどんな意味で使っているかを説明することは、以前はほとんどありませんでした。でも、実は日本語の「主語(しゅご)」と中国語の「主語(zhǔyǔ)」の違いをきちんと説明することが、文法に対する苦手意識をほぐすきっかけになるのかもしれないと最近は考えています。そして、そういう日本人の学習歴に配慮した丁寧な指導ができることは、きっと私たちの強みになるはずです。

なお、Twitterの「C.主語がない」という選択肢は、「日本語の『~は』は『主題』であり『主語」ではない」という説等を念頭において加えたものです。(Instagramでは機能の関係で二択にしました。)

(2020.3.12)